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現代
9




「戸野部は、俺にくれるって言った」

激昂している希美とは打って変わって、自称宇宙人はいつも通り冷静そのものだった。
いや、いつも通りというのはちょっと違う。
いつもなら、誰に声を掛けられても基本無視する筈だ。それが、希美の言葉に、返答を返している。いつもの自称宇宙人ならば、考えられない行動だ。
きっと周りの野次馬も意外に思っているだろう。

「幼馴染のくせに、出しゃばらないでしょ!彼女の私に譲りなさいよ!!!」

一日経っても、希美の興奮は収まらなかった……いや、寧ろ確実に高まっていた。
全く、筋の通らない主張を振りかざしている。冷静な判断力も消え、ただ子どものように駄々を捏ねる。

「幼馴染………?戸野部は俺を幼馴染なんて言ったの?」

相変わらず質問するポイントがズレているような気がする。
って、俺は何で二人のやり取りを見ているんだ。早く、止めないと迷惑だな。

「希美」

取り敢えずは、希美を隔離しよう。そうすれば、教室の外で入れずにいるクラスメートたちを中に入れることができるだろう。そう思い、希美をこの場から連れ出そうと先に希美に声をかけた。

「馨君……!」

自分の味方が来てくれたといった歓喜の表情を浮かべ、希美は俺の腕に自分の身体を絡めてきた。ここが学校の中だと言うこともお構いなしのべったりに、野次馬から口笛があがった。全く、外野は気が楽で羨ましい。
―――それにしても、希美はどういうつもりなのだろう。
俺と二人っきりのときでさえ、こんな風に大胆な行動をとったりしないのに。

「希美、取り敢えず、行こう」

「え?どこに行くの???」

昨日あったことなど無かったかのような希美の態度に戸惑いを隠せないものの、今はそのようなことを言っている場合ではない。問答無用で希美を教室から連れ出そうとすると、思いも寄らぬところから、それを妨げる声があがった。

「戸野部」

俺の名前を呼ぶ声に、つい、動きが止まってしまった。

「いつから僕は戸野部の幼馴染になったの」

まさか、今、この時に、そんな質問をされるとは思わなかった。
それは野次馬にとっても同じだったようで、皆一様にぽかんと口を開けて、間抜けな顔をしている。もっと他に聞くことがあるだろうというツッコみが目に見えるようだった。
ただ、この場で一人その質問に過敏に反応した人間がいた。

「馨君、舘向君とは幼馴染だって、言ってたよね…?」

これはヤバイ。直感で俺はさっさとこの場を脱出することを決意した。

「悪い、それはまた今度、ゆっくり話そう」

自称宇宙人にそう告げると、俺は胡乱な目付きの希美を強引に教室から連れ出した。
朝の登校時間、廊下には多くの生徒がいた。皆、各自の教室へ向かおうと足を進める中を逆走して俺は昇降口へ急いだ。学校内では誰かの目線があるし、落ち着いては話せない。取り敢えず、誰もいないところ……となると、俺の部屋しか思い付かなかった。
仕方なく、俺は登校間もなく、下校することになった。

「どこに行くの?」

隣で希美が不思議そうな顔を浮かべる。その顔には自分が大変なことをやらかしてしまった自覚など微塵も浮かんでいない。





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